概要

 18番染色体のすべてあるいは一部の重複に基づく染色体異常症であり、生まれてこられるのは1/3,500〜1/8,500人です。1960年、英国の遺伝科医Edwards先生らが初めて報告しました。
 18番染色体の重複の仕方には分類がありフルトリソミー型(93.8%)やモザイク型(4.5%)、または、不均衝型相互転座の結果として生じた部分トリソミー(1.7%)があります。誰にでも時々偶然起きる事なのですが、精子や卵子がつくられる段階で、染色体が分離するバランスを誤ることがあります。その場合、精子や卵子はうまく育たないことが多いのですが偶然受精にいたったときにはフルトリソミー型となり、母親の体内で淘汰(流産)される可能性を何度も乗り越えて生まれてこられる可能性があるのです。

 

症状

 母親のお腹の中にいるときからの成長障害、生まれてきたあとも重度発達遅滞、身体的特徴(手指の重なりや短い胸骨、揺り椅子状の足など)、先天性心疾患、肺高血圧症、呼吸器系合併症(横隔膜弛緩症、上気道閉塞、無呼吸発作など)、消化器系合併症(食道閉鎖、鎖肛、胃食道逆流など)、泌尿器系合併症(馬蹄腎、水腎症、そけいヘルニアなど)、骨格系合併症(関節拘縮、側弯症など)、難聴、悪性腫瘍(Wilms腫瘍、肝芽腫)などの症状を呈するとされていますが、すべての症状を発症しているというわけではなく、一人ひとりに症状の個人差があります。
 モザイク型トリソミーの場合、症状は全体として軽症となる傾向にありますが、フルトリソミーに近い場合もあります。

 

診断

 症状から18トリソミーを疑い、染色体検査(G分染法)で診断されます。

生まれてからの経緯
 海外の大規模調査によれば、1年生存率(1歳のお誕生日を迎えることが可能だった方)は5.6%〜8.4%、生存期間の中央値は10〜14.5日、死亡原因は無呼吸発作、蘇生中止のためとされています。日本では積極的治療をおこなった各施設から新生児集中治療の有効性(心臓手術以外のあらゆる治療の提供により1年生存率25%、生存期間中央値152.5日、死亡原因は先天性心疾患に基づく左右短絡を背景としたうっ血性心不全および肺高血圧の憎悪)、心臓手術の有効性(1年生存率47%、生存期間中央値324日)、食道閉鎖根治術の有効性(1年生存率17%)が示されています。
 発達面では、重度の精神運動発達遅滞を呈しますが、生存する限り少しずつ発達を遂げます。18トリソミーの会(http://18trisomy.com )の調査では、15%は全量経口摂取でき、45%は退院できました。10歳以上の長期生存児4人が確認され、うち2人が独歩(2歳3ヵ月、5歳9ヵ月で達成)、3人が全量経口摂取、2人が言語を理解、1人が乳児の世話をし、1人が身振りを交えて多数の歌を歌っていました。
 

治療

 生命に直結する重要な合併症は、呼吸循環系に関するものです。呼吸器系では、解剖学的・機能的異常(嚥下障害や胃食道逆流)また感染症による上気道の閉塞、解剖学的異常・うっ血性心不全が進行します。また感染症による下気道病変、これに中枢性無呼吸発作が加わります。循環器系では、先天性心疾患を背景に、肺高血圧、うっ血性心不全が進行します。
 出生後、全ての子どもに慎重な呼吸心拍モニタリング、X線、心臓超音波検査による評価をおこない、適宜胃食道逆流、無呼吸発作の精査をおこないます。症状に応じた適切な呼吸循環補助(人工呼吸管理、先天性心疾患への内科的・外科的治療)、感染症対策、胃食道逆流の治療をおこないます。発達を評価し、全身状態が安定すれば、療育的支援を導入します。
 深刻な予後(生命、神経学的)を医療者と家族が共有し、子どもにとっての最善の利益をめざして、刻々と変化する病状に合わせたきめ細やかな医療・ケア、療育的支援、家族への心理社会的支援をおこなっていくことが重要です。『重篤な疾患を持つ新生児の家族と医療スタッフの話し合いのガイドライン』がよい指針になることでしょう。医療スタッフ(多くはNICUの医師、看護師から)は、両親にとって話しやすい関係を保ちながら、両親とともに日々の身体的変化を細やかに観察してよりよい医療につなげ、また子どもの成長・発達を慈しむ姿勢を示し続けることが大切です。その積み重ねが、医療機関と両親との深い信頼関係構築の基盤となるからです。

 


参考文献
1.櫻井浩子、橋本洋子、古庄知己(編)「18トリソミー:こどもへのよりよい医療と家族支援を目指して」メディカ出版
2.古庄知己 18トリソミー「小児の疾患と看護」(中村友彦編)メディカ出版
3.Kosho T,Kuniba H,Tanikawa Y, et al:Natural history and parental experience of children with trisomy18 based on a questionnaire given to a japanese trisomy 18 parental support group. Am j Med Genet Part A161A:1531-1542,2013.
(18トリソミーの会との共同研究成果をまとめた論文)
4.古庄知己 18トリソミーの自然歴およびマネジメントの確立をめざして.日本小児科学会誌 114巻4号:637-645,2010.

 

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